『練り消しを自作して巨大化させた昭和の子供たち』
「サトシ、見てみろよ! ついにこんなにデカくなったぞ!」
放課後の教室。タカシが、自慢げにパッと手を開いた。手のひらに乗っていたのは、鉛筆の黒い粉をこれでもかと吸い込んで、真っ黒に光る大きなカタマリ。
文房具屋さんに売っている、イチゴの匂いがするきれいな練り消しなんて、僕たち男子にとっては「ニセモノ」だった。あんなの、少しもかっこよくない。
漢字練習や計算ドリルを頑張って、机の上に出たたくさんの消しゴムのカスを、自分の指だけでぎゅっ、ぎゅっと固めて大きくしていく。それだけが、僕たちの本気の遊びだった。
「……うーん、デカいけどさ。タカシのこれ、ちゃんとこねてないから、ボロボロじゃん」
「なんだと?」
僕はポケットから、三日間、授業中に机の下でずーっとこっそりこね続けた、自慢の練り消しを出した。タカシのやつより一回り小さいけれど、すき間がなくて、ツルツルしたきれいな丸だ。
「ベースにする消しゴムは、やっぱりMONO(モノ)じゃないとダメなんだよ。ノートの端っこを鉛筆で真っ黒にぬって、それを消して、黒い粉をどんどん混ぜるんだ。触ってみてよ。僕の手の熱で温まって、お餅みたいにネバネバして強いから」
親指でグッと押してみせる。タカシのやつならここで崩れちゃうはずだけど、僕のはびくともしない。タカシが悔しそうな顔をした。
「くっそー……めちゃくちゃ固いじゃん。よしサトシ、勝負はここまでだ。二人のやつ、合体させようぜ!」
これがいつもの決まりだった。
どっちがデカいか比べたあとは、お互いの練り消しを混ぜ合わせて、クラスで一番大きな「大魔王」を作るんだ。
「いくぞ」
「おう!」
じっとり汗をかいた手の中で、二つのカタマリが混ざり合っていく。
ぐりぐり、ぎゅっぎゅっと力を入れる。親指が痛くなるくらい固いけれど、それが最高に楽しかった。
「できた! 見てよ、大人のグーの大きさになったぞ! これなら隣のクラスのやつらにも絶対に勝てる!」
夕方の教室で、二人で大喜びしたそのときだった。背中がゾクッとした。
「……おい。お前ら、そこで何をやっているんだ」
振り返ると、担任の坂本先生が怒った顔で立っていた。先生の目は、僕たちの手の中にある、どう見ても泥だんごにしか見えない「宝物」をじっと見つめている。
「あ、いや先生、これはその……消しゴムの新しい使い方を、研究していまして……」
「言い訳するな! 没収(ぼっしゅう)!」
一瞬だった。先生の手が伸びてきて、僕たちの宝物は、教卓の引き出しの奥へと入れられてしまった。ガチャン、と重い音がして引き出しが閉まる。僕たちの三日間が、一瞬で終わった。
次の日の朝。僕たちの机の上は、すっかり綺麗になっていた。
手元に残ったのは、もうカスも出ないくらい小さくなった、みすぼらしい消しゴムだけ。
タカシがぽつりと言った。
「……なぁサトシ。今日の二時間目、国語の漢字書き取りだよな?」
「あぁ。たっぷり二ページ分あるよ」
僕たちは顔を見合わせて、ニヤッと笑った。
せっかく作ったデカいやつは取られちゃったし、すごく悔しいけれど、そんなのどうでもいい。僕たちの指先と、このちっぽけな消しゴムがある限り、またゼロから新しく作り直せばいいだけの話だから。