『教科書のインクより、焦げた醤油。昭和の冬の教室を支配していた「匂い」とは?』
冬になるとね、今でもあの教室の匂いを思い出すんだ。
朝、学校についたら真っ先にストーブへ走るの。
手を温めるためじゃないよ。アルミのお弁当箱をストーブの上にのせるため。
真ん中はすぐ焦げちゃうし、端っこに置くと後から来た子に落とされちゃうから、みんな自分の場所を決めるのに必死だったな。
3時間目が、いちばん大変。
授業なんて、もう誰も聞いてないの。
最初はごはんのいい匂いなんだけど、だんだん焼き魚や揚げ物の匂いがしてきて、だれかのお弁当の汁がストーブにたれてジュッ!って音がする。
一瞬で教室中が焼き肉屋さんみたいな匂いになって、お腹がグーグー鳴っちゃって、本当に困った。
4時間目が終わりのチャイムが鳴ると、もうお祭り騒ぎ。
みんなでストーブのまわりに集まって、「あちち!」って言いながら、ぞうきんやノートで急いでお弁当箱をはさむの。
自分の席に戻って、パカッと蓋を開けたときのあの湯気。
底のほうにできた茶色い「おこげ」に、おかずのタレがじわーって染みていて、それがもう、びっくりするくらい美味しかったんだよね。ちょっとストーブの灰の匂いがするのも、なんだか特別だった。
今のあったかいまま持ち運べるお弁当箱じゃ、あのカリカリした美味しさは絶対に出せない。
外は雪が降るくらい寒かったのにね。教室の中だけは、あの焦げたお醤油の匂いとみんなの熱気で、本当にあったかかったな。